がん遺伝子治療
がん遺伝子治療とは
がん遺伝子治療とは、がんの原因となる異常な遺伝子やその働きを修正、抑制、または置き換えることで、がんの成長や進行を抑える治療法です。遺伝子をターゲットにして、がん細胞の増殖を防ぐための治療で、通常は正常な遺伝子を導入したり、異常な遺伝子の発現を抑えたりします。この治療は、がんの根本的な原因に働きかける新しいアプローチです。
通常、体の中ではがんにならないためにがん抑制遺伝子が働いています。それは問題の発生した細胞を修復したり、アポトーシス(自死)させたり、増殖を停止することで、がんが発達しないようにしています。
がん抑制遺伝子の主な働き
一方でがん抑制遺伝子自体が破壊されると制御を失い、がんの増殖に歯止めが効かなくなります。遺伝子治療ではがん抑制遺伝子が壊れた患者さんにがん遺伝子を直接届けることにより、細胞本来の力を取り戻し、がんの増殖を停止させ、がん細胞の老化死およびアポトーシス(細胞自殺)に誘導します。
がんを発症する患者さんの多くは、このがん抑制遺伝子が欠落しているか機能低下をしていることから、がん抑制遺伝子を投与することによりがんの活動を抑えることを目的としています。
CDC6 RNAi療法で切り拓く!新たながん遺伝子治療
最近ではCDC6 RNA干渉(RNAi)療法と呼ばれる新たな遺伝子治療が登場しました。それはがんの無限増殖の原因と考えられるCDC6(Cell Division Cycle 6)と呼ばれるタンパクを「RNA干渉」という先端技術で除去する遺伝子治療です。CDC6とは、DNA複製に関与する重要なタンパク質です。このためCDC6の異常な発現はがん細胞の増殖を促進することで有名です。これを標的としたRNAi療法はがん細胞の増殖を効果的に抑制し、さらにアポトーシス(細胞死)を誘導することで腫瘍を攻撃します。副作用が少なく、他の治療(化学療法、放射線療法、免疫療法など)と併用しやすい治療です。
なぜCDC6を抑制することに意味があるのか
p53、p16、PTENなどのがん抑制遺伝子が不活性化されると、細胞周期のブレーキが外れ、無制限に細胞が増殖するようになります。結果としてCDC6の過剰な活性化により腫瘍形成や悪性度が高まります。特定のがん抑制遺伝子に異常がある場合は、そのがん抑制遺伝子による治療効果が期待できますが、どの遺伝子が発現しているかは、がんの種類によって決まっているわけではありません。しかし、CDC6はさまざまながん抑制遺伝子に異常がある際に増える遺伝子のため、特定(もしくは複数)のがん抑制遺伝子よりもCDC6を標的にすることで腫瘍の増殖・がんの進行を間接的にコントロールできる確率が高まります。実際に前立腺がんや乳がんなど、さまざまながんでCDC6の発現が活性化していることが最近の研究で証明されています。
さまざまながん抑制遺伝子がCDC6の活性に影響している
当院では点滴投与だけでなく、乳糜腹水や血性腹水に対しても腹腔内投与でCDC6 RNAi療法を提供しています。
※最近ではがん遺伝子パネル検査で原因遺伝子を解析することにより、より良い効果を示す可能性も期待できるため、他のがん抑制遺伝子も併用した遺伝子治療をご希望の方は検査結果をご持参ください。
- 治療方法
- 静脈内点滴、腹腔内投与のいずれかで行います。
投与時間は概ね30分です。
※腹腔内投与の場合は腹腔ポートが必要となります。ポートについては腹腔内抗がん剤治療の項目をご参照ください。
- 費用:保険適応でない治療のため、自由診療(全額自己負担)となっており、保険外診療となります。
- 1回につき 220,000円(税込)
- 投与期間、頻度
- RNAiは体内で分解される速度が比較的早く、定期的な投与が必要です。治療開始時は一定の効果が得られるまで1~2週間ごとの間隔で治療を繰り返し行う必要がある可能性があります。効果が得られた後も、維持するために間隔を空けて定期的な投与が必要です。
- リスク・副作用
- 投与後、一時的に悪寒、発熱があることがありますが、これらは解熱剤で対応可能です。
また蕁麻疹、吐気、軽度の白血球減少、腎機能の低下、血液凝固障害などが報告されています。
- 入手経路など
- 製造元:Los Angels Rntein biotechnology. inc
製品名:ecm- Rv/Cdc6nksh RNAi, ecm- Rv/p53-pt
※上記いずれもFDAに申請中(対象疾患:膵臓がん、乳がん)
- 参考文献
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- Shijiao Huang et al. DNA replication initiator Cdc6 also regulates ribosomal DNA transcription initiation, J Cell Sci.2016 Apr 1; 129(7):1429-40. doi: 10.1242/jcs.178723. Epub 2016 Feb 12.
- Yue He et al. Cell Division Cycle 6 Promotes Mitotic Slippage and Contributes to Drug Resistance in Paclitaxel-Treated Cancer Cells PLoS One. 2016 Sep 9;11(9):e0162633. doi: 10.1371/journal.pone.0162633. eCollection 2016.
- Kim YH, Byun YJ, Kim WT, Jeong P, Yan C, Kang HW, et al. CDC6 mRNA expression is associated with the aggressiveness of prostate Cancer. J Korean Med Sci. 2018;33:e303.
- Mahadevappa R, Neves H, Yuen SM, Bai Y, McCrudden CM, Yuen HF, et al. The prognostic significance of Cdc6 and Cdt1 in breast cancer. Sci Rep. 2017;7:985.
- Cai J, Wang H, Jiao X, et al. The RNA-Binding protein HuR confers Oxaliplatin Resistance of Colorectal Cancer by upregulating CDC6. Mol Cancer Ther. 2019;18(7):1243–54.